⑦ 手術的治療
1)耳管ピン手術
鼓膜側から、耳管内への挿入していくシリコン製の薄くて前後方向に長い耳管ピンを小林ら東北大学のグループが発明し開発しています。筆者らも、この小林式耳管ピン(海外ではKobayashi‘s Plug )を耳管開放症患者に使用していますが、その先端部が広がりすぎている耳管峡部をある程度塞ぐことで、過剰な空気の流れを防ぐことができるという優れものです。鼓膜のすぐ奥に置かれて、色も緑色であるため、術後、鼓膜穿孔部が残っている間だけでなく、穿孔が塞がっても経過を観察できます。当院の自験例では、保険適応となるR3年3月以前に耳管ピンを含めた耳管の手術件数は200例以上、保険適応となったR3年3月以降に施行例だけでも90例以上になり、86%に自他覚的に改善を認め、合併症は有効例でも認められました。
すなわち、術後2カ月頃までの間に滲出性中耳炎の合併を1割強に、鼓膜穿孔も1割以上で認められましたが、ほとんどの例が追加治療で修復可能でした。
2)レーザー使用による鼓膜チューブ手術
耳管開放症の中でも鼻すすりをして中耳陰圧を生じて自分で症状をコントロールできる例では、耳管ピンよりも鼓膜チューブを挿入することで、鼓膜の動揺(パカパカ音など)が無くなって自覚的に耳症状がとれる例が時にあります。
ただし、鼓膜チューブを挿入することで、逆に耳管開放症の耳症状が悪化する例がありますので、いきなり鼓膜チューブを挿入するのではなく、いったん鼓膜切開などをレーザーで行って、その後の耳の症状を経過観察してから判断することが安全面では最善と思われます。
3)耳管鼓膜チューブ挿入術
鼓膜チューブと、その内腔に耳管の峡部を超えて軟骨部耳管まで達する耳管チューブを組み合わせて装着し、一体化し、耳管鼓膜チューブとして手術治療に用います。この耳管鼓膜チューブは、全長が25mmから40mmまであり、内腔は0.8mm前後、材料はポリウレタンなど、ある程度、生体親和性と硬度のあるものを使用しています。図にありますように、咽頭口側になる前方の先端部かその近傍には小孔(小さい孔)があり、ガイドワイアを使用して外耳道経由で鼓膜切開後に、骨部耳管から少しずつ耳管峡部を超えるまで挿入していきます。耳管鼓膜チューブの後端部は、鼓膜チューブ内腔を通り、再外側の鼓膜外側に固定されるため安定し安全性も高く、また、鼓膜チューブと分離して抜去することも可能です。
耳管鼓膜チューブの使用により、耳管に狭窄や閉塞があっても、このチューブ状の構造物が耳管の病変部位を通すことで、耳管の生理的な換気能力を保持することが可能となりますので、耳管開放症はもちろん、ほぼすべての耳管機能障害に適応となりえます。特に耳管鼓膜チューブの鼓室内に位置することになるチューブ状構造物の側面には鼓室内を換気する目的の直径約0.1~0.2mm程度極小の孔が5、6個以上あり、鼓室内の換気を促進します。