② 耳管狭窄症の治療
1)耳管カテーテルによる通気治療
耳鼻咽喉科医師のみが可能な処置治療の代表的なものです。
軽症例では、鼻から通気用の耳管カテーテルを挿入し、機械で圧を加えて耳管経由で鼓膜の奥に空気を送り込む方法です。海外ではほとんど行われていませんが、通気処置の直後は聞こえが良くなったり、音がはっきりすると言われます。耳管狭窄症が中等症か重症例では、通りが悪いですので、この処置は医師の工夫や手腕にかかっている場合も少なくありません。
2)薬物による保存的治療
飲み薬による保存的治療では、消炎酵素製剤や抗アレルギー作用を有する薬剤内服投与が行われていますが、耳管狭窄の程度を客観的に示すような耳管機能の判定はほとんどなく、治療効果の主観的判断に基づく評価の域をでていません。
私共は、耳管機能検査などで重症度の評価を行い、その診断結果に基づいて前述の治療を行っています。耳管狭窄症が中等度以上の例では薬物や処置による保存的治療だけでは効果があがらず、投薬治療後も耳管機能不良例では手術などの追加的な治療を要する方がおられます。
3)手術的治療
1.鼓膜チューブ挿入術(詳しくは耳の病気の手術を参照)
耳の病気の手術のリンクにもありますように、手術は比較的簡単でリスクは少なく、耳閉感や難聴などに対しての効果が認められます。この手術を行っても、飲み薬や外用の点鼻薬は半年間以上の継続を要することがあります。鼓膜チューブは平均約半年後に自然抜去して外耳道に自然に排出されるため、自然排出後半年以内にまた再度挿入を要する方が約半分おられます。その場合も再度の挿入で耳症状の悪化は食い止めることができますのでご安心ください。
2.耳管鼓膜チューブ挿入術(詳しくは耳の病気の手術を参照)
私共が開発した独自の治療です。このチューブは、鼓膜チューブと、その内腔に耳管の峡部を超えて軟骨部耳管まで達する耳管チューブを組み合わせて装着し、一体化し、耳管鼓膜チューブとして手術治療に用いています。この耳管鼓膜チューブは生体親和性があり、安全性で問題なく硬度のあるものを使用しています。耳管鼓膜チューブの使用により、耳管に狭窄や閉塞があっても、このチューブ状の構造物が耳管の病変部位を通すことで、耳管の換気能力を保持することが可能となります。
4)耳管狭窄の治療選択について
中耳炎などの合併症を伴わないいわゆる耳管狭窄症の診断を耳管機能検査などできっちりと行い、診断がついてからの治療は、重症でなければ、まず耳管通気治療を行うとともに、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎を併発している例には、それらの処置や投薬治療を追加するのが一般的です。重症度に応じての若干投薬内容は異なりますが、副鼻腔炎を伴う場合はマクロライド系の抗生物質や表面活性化物質による治療は粘膜の炎症を抑えると同時に線毛運動を活性化させ、いわゆるmucous blanket layerのactivityを高めることが可能になるので、耳管狭窄そのものに対する薬物治療としても重要な役割を担います。約3ヶ月から、重症では半年以上の薬物治療に抵抗し、滲出性中耳炎を随伴する場合は、滲出性中耳炎に対する治療に準じて鼓膜チューブ留置術を施行し、特に鼻アレルギーや副鼻腔炎併発例には再度抗アレルギー剤やマクロライド製剤の全身的投与と局所のステロイド投与を併用して行うことで改善をはかりますが、それでも難治性でこれらの治療で無効例、並びに最初からの重症例では、耳管鼓膜チューブ挿入などの手術治療を有効性と安全性が担保されたこれからの治療として重要であると考えています。